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最高裁判所第二小法廷 昭和59年(行ツ)280号 判決

那覇市壷屋一丁目二八番一四号

上告人

仲村元昭

右訴訟代理人弁護士

西平守儀

武原元省

那覇市旭町九番地

那覇税務署長

被上告人

宮城松栄

右指定代理人

立花宣男

右当事者間の福岡高等裁判所那覇支部昭和五八年(行コ)第一号所得税更正処分等取消事件について、同裁判所が昭和五九年六月二六日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人西平守儀、同武原元省の告理由について

本件課税処分を適法とした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、いずれも採用することができない。

よって、行政事件訴訟法第七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 香川保一 裁判官 牧圭次 裁判官 島谷六郎 裁判官 藤島昭)

(昭和五九年行ツ第二八〇号 上告人 仲村元昭)

上告代理人西平守儀、同武原元省の上告理由

第一点 「数人共同の出資をもって、土地を購入した場合には、反証がないかぎり、・・・その土地は出資者の共有に属すると認めるべきである。」(大審院大正六年四月一八日判決、大審民録二三輯七九九頁)

二、ところで、原判決は、本件土地の権利関係につき、「安田住宅建設用地とする目的で、安田住宅を買主として地主代表である西原太郎ほか三名との間で浦添市字城間北宇治真ほか所在の土地一万四、〇〇〇坪を買い受ける旨を約し」(第一審判決一〇枚目表一三行目から同裏三行目まで及び第二審判決三枚目裏一二、三行目)「右売買代金及び諸経費のうち原告が出捐した前記一、五〇〇ドルと安田が出捐したという後述の三、〇〇〇ドルを除く全額は盛吉がこれを出捐した」(第一審判決一一枚目表二行目から五行目まで)と金城盛吉(以下盛吉という。)以外にも原告(上告人)及び安田哲之助(以下安田という。)が、本件土地購入資金を出資していることを認定しながら、「本件土地は、当初の買主である安田住宅の地位を承継した盛吉及びその相続人たるマサ子の単独所有であったもの」(第一審判決一四枚目裏二行目から四行目まで及び第二審判決四枚目表一三行目)と判断しているのであるが、如何なる約定及び対価により、盛吉が安田住宅株式会社(以下安田住宅という。)の地位を承継したのか、また、後述の如く、上告人らもしくは安田住宅は本件土地購入資金を出資し続けているにもかかわらず、何故共有持分を取得しないのか、換言すれば、盛吉の本件土地単独所有権取得原因たる事実について判示するところがない。

三、原判決にいう「地位の承継」時点も明確ではないのであるが、これを上告人らの出資金との関係でみると、「このようにして買い入れられた土地は、盛吉の意向で安田住宅の賃貸住宅建設用地としては利用されずそのまま放置されたこと、安田はこれに対し不満であったが、結局昭和四二年ころ盛吉から右土地買入れ等に出捐した諸費用の償還として三、〇〇〇ドルの支払を受け、事実上右土地から手を引く形となった」(第一審判決一一枚目表一二行目から同裏五行目まで)とし、上告人の出資金一、五〇〇ドルについては、「前記手附金一、五〇〇ドルを差引計算しても異ならない」(第二審判決六枚目表二、三行目)とするのみで、盛吉もしくは金城マサ子(以下マサ子という。)から上告人が右金員の返還を受けたという事実認定はない。右判示だけでは、安田は「事実上右土地から手を引く」までは共有持分を有していたのか否か、安田が「手を引く」までに、本件土地は相当な値上りをしているのであるが、利息の支払も受けていない安田が、(第一審安田哲之助証人調書九二、三項)その出資金と同額にすぎない三、〇〇〇ドルを対価として、その共有持分を盛吉に譲渡したというのか、及び上告人出資金に対応する共有持分は如何にして盛吉が承継したのか、全く不明確である。

四、ところが、原審は、(盛吉が本件土地につき単独所有権を取得する原因となる事実を示すことなく)上告人ら共同出資者の間柄や事柄の性質から考えて、共有関係にあるならば、持分割合を示す文書が作成されて然るべきであるが、それが作成されていないこと、上告人らが「いわば聾桟敷に置かれていた」こと、及び、上告人の共有持分割合に関する主張が変転していることから、本件土地が盛吉ないしマサ子の単独所有に帰したものと断じている。(第一審判決一三枚目表一行から九行目まで)しかし、

1. 土地購入代金を共同出資し、且つ、その土地を使用する目的を有する者に対し、その共有持分を否定するためには、反証として文書等を必要とするというのが、前掲の判例の趣旨であろう。蓋し、そのような共同出資者に対し、共有持分を否定することは、当事者の通常の意思に反し、また、公平を欠くものであるからこそ、これを否定するに足る特別の事情として反証を必要とするからである。さらに本件についてみれば、(文書は権利確保の手段として作成されるものであるところ、)上告人は、共有持分に関する文書なくして、持分相応の金員を受領しているのであるから、まさに、当事者の間柄や事柄の性質からして、上告人には、原審の要求する文書作成の必要はなかったのである。

2. 上告人らは、「いわば聾桟敷に置かれた」として指摘されている諸事実は、上告人らが、共有持分割合の大きい盛吉の意向に従わざるを得なかったことを過大に評価したもので、民法二五二条その他上告人・盛吉間の諸事情(第一審上告人第二回本人調書三六、七項及び七六項など)からして、上告人の共有持分否定の根拠たり得ない。

3. 上告人の共同持分割合に関する主張が変転したのは、各共有者の税引後の手取額を共有持分割合の基準としたため、本来の共有持分割合である税込みの分配金額の算定が困難であったことや、税務署職員の指導(乙第四号証の三第一行目及び第一審上告人第二回本人調書八項など)に起因するものである。上告人は、修正申告の段階から本件土地譲渡代金と上告人の取得金額を対比しながら、その持分割合を算出しようとしている。(乙第二号証の二)右のような事情であるから、上告人の主張の変転とその共有持分の存否とは全く関係がない。

五、よって、本件土地は安田住宅の地位を承継した盛吉及びその相続人たるマサ子の単独所有であったとする原判決の判断は、叙上の諸点から見て不当で、その理由に齟齬があるか、理由不備もしくは重大なる事実誤認または判例違反の違法あるものとして破棄されるべきである。

第二点 原判決は、本件土地売却に際し、マサ子は上告人に対し「立会人として契約締結に関与するなどの事務処理を委託し、右土地に対する控訴人の既往の役務提供の分と合わせ、それに対する報酬の支払約束もした」(第二審判決四枚目表二行目から四行目まで)とする。ところで、

二、右にいう「既往の役務提供の分」には、「安田とともに本件土地取得に先べんをつけ」(第一審判決一五枚目裏五、六行目)て、とりまとめ交渉に入った段階からの役務が対象になっているが、被上告人は「盛吉が本件土地の買主としての地位を肩替りして以後は、控訴人は、個人的立場で本件土地の売却等に関与し、役務を提供している。なお、控訴人の本件土地売却等に関する種々の行為が役務の提供に当たること、控訴人が受領した金員が右役務提供したこと等に対する報酬ないしは謝礼金として給付されたものである」として、盛吉が看替りしたとされる時点以後の役務提供を報酬の対象であると主張しているにとどまる。報酬の対象とされる役務提供の範囲は、その対価たる報酬の相当性との関係でも重要であり、主要事実であると考える。

よって、原判決は、被上告人の主張に基づかない違法であり破棄さるべきである。

三、更に、前記「報酬の支払約束もした」という主張は、被上告人において原審結審の際に提供したもので、その証拠として挙げられている第一審上告人第一回本人調書九二項は、何ら役務提供の対価としての報酬支払について述べている点はなく、他にこの主張を立証する証拠もない。原判決の右判示は、証拠に基づかない違法な事実認定として破棄されるべきである。

第三点 原判決は、上告人と合資会社大球産業(以下大球産業という。)との不動産売買仮契約書(甲第六号証)について、「右仮契約書は、大蔵省及び大球産業との本契約締結に先立ち大球産業において宅地造成工事を行うための便宜上暫定的に作成されたもので、大球産業の代表者仲松彌春は、仮契約書の存在自体に重きを置いておらず、右のような売主の記載についてもその認識がない旨述べていることが認められ、右事実や大球産業との売買交渉がマサ子自身及びその意を受けた春子によって行われ、売買契約も売主をマサ子として作成されたという前認定の事実を照らすと、仮契約書である甲第六号証の右記載及び当審証人新田宗達の証言は、前記(二)の認定を覆し、控訴人の前記主張を裏付けるに足りるほどの実質的価値があるものとは認め難い」(第一審判決一三枚目裏一三行目から同一四枚目表九行目及び第二審判決四枚目七行目から一一行目まで)と判断し、右仮契約書に上告人らが売主として表示されているにもかかわらず、共有持分を否定している。確かに、右仮契約書に売買物件として表示された土地(本件土地)のうちには大蔵省へ売却された分が含まれていて事実と多少異なる点もあるが、地価を坪当り四〇ドルと確定していること、大蔵省との売買価格である坪当り六五ドルと右四〇ドルとの差額は、大球産業に対し整地費用として支払われ、実質的には大球産業は仮契約書どおりに本件土地全部を坪当り四〇ドルで購入したのと同じ結果になっていること、仮契約書に売主として表示されている全員が本件土地売買代金を分け合っていること、仮契約締結と同時に五万ドルの手附が大球産業から売主に交付されていること、仮契約書の条項は何等本契約と異らないこと、及び、わざわざ宅地建物取引業法の定める取引主任者に契約書を作成させるという慎重な手続を採っていることなどを見れば、甲第六号証が売買当事者双方の権利義務を確定した重要な処分証書たることは明白である。然るに、甲第六号証の記載ないし重要性を排斥する根拠となっている仲松彌春の答述(乙第九、一〇号証)は、「当初契約までは私がしたが、その後の取引は当時職員も多数おったので桑江が担当として取引した」(乙第九号証問1答前半)といいながら「私は、仮契約のことは知らなかったがこの仮契約は当社の社員が造成工事の便を図るために作成したものと考えられます」(乙第一〇号証問3答)と変転し、また、何故土地造成工事の便を図るために五万ドルもの手附を交付して仮契約書を作成する必要があったのかなど合理的説明を欠く不自然なもので、これに従った原審の事実認定は採証の方則に反した違法あるものとして破棄せらるべきである。

第四点 原判決は、前記のとおり、マサ子が上告人に対し「立会人として契約締結に関与するなどの事務処理を委託し、右土地に対する控訴人の既往の役務提供の分を合わせ、それに対する報酬の支払約束もした」と判示し、更に、雑所得とするには、提供された役務とこれに対価として支払われる報酬との間に相当性が必要としながら、(客観的には本件土地の取得価格の数パーセントを出ないと見られる上告人の役務提供に対し)本件土地の取得価額三万六、七二三ドル九〇セント(第一審判決五枚目表六、七行目)の約二倍にも該る六万四、二九一ドル六一セント(第一審判決一六枚目表七、八行目)を対価として著しく相当性を欠くものとはいえないとしている。(第一審判決一五枚目裏三行目から一二行目まで)結局、雑所得とするためには、当事者間で特定の役務提供の対価として報酬を支払う旨の合意は必要であるが、対価の対象とされる役務の範囲は、過去において無償とされたものを含めることができ、また、役務とその対価との間には客観的な相当性を要しないということになろう。しかし、このように著しく当事者の主観に偏した解釈は、課税の公平等を期した所得税法の各種所得の分類及び所得計算の趣旨に反しよう。

よって、原判決が、上告人がマサ子から受領した金員を雑所得と認定したことは、法令の解釈を誤った違法があり破棄を免れない。

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